こんにちは。コアネット教育総合研究所の松原和之です。
シリーズ「子どもの学びを変える7つのキーワード」の最終回7回目です。今回は「教室の心理的安全性」について取り上げます。
学校の安全といえば、一般には「生活安全」「交通安全」「災害安全」のことをいうと思います。学校生活や通学時の事故防止だけでなく、不審者からの被害防止や震災等の災害時の安全確保などもあります。これらはとても重要なことがらでありますが、今日お話しする「安全」は異なる側面からの安全です。
それは「心理的安全性」というお話です。学校において子どもたちが心理的・精神的に安全を感じているかどうかということ、つまり、教室の中で、児童・生徒が自分の考えや気持ちを安心して発言・発表できる状態が確保されているかということです。そのことで、子どもたちの主体性やクリエイティビティが発揮され、対話的で深い学びが促進されるという効果があります。
元々、心理的安全性(psychological safety)という言葉は、ハーバードビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授が1999年に提唱したものです。「チームのメンバー一人ひとりがそのチームに対して、気兼ねなく発言できる、本来の自分を安心してさらけ出せる、と感じられるような場の状態や雰囲気」と定義しています。
2016年にIT企業のGoogleが「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」と発表したことから、この言葉が注目を集めるようになりました。企業において成功する組織の条件として心理的安全性が注目されるようになったのです。
このように心理的安全性が注目されると、他の組織・チームでも応用できるのではないかという研究が始まりました。その一つが「教室」「子どもたちのチーム」というわけです。
教室においても、心理的安全性が高いと、子どもたちの関係性が良くなり、他の子が発言・発表した内容に触発されて新しいアイデアが生まれるなど、学びが深くなります。つまり、教室の心理的安全性が高いと、子どもたちの主体性やクリエイティビティが発揮され、対話的で深い学びが促進されるのです。
教室の心理的安全性を確保するためには、第一に「異質なものを許容する環境づくり」が大事です。変な発言をすると馬鹿にされる、みんなと違う意見を言うと否定される、そんな環境では安心して発言できません。そして第二は「失敗を許容する環境づくり」です。失敗を許容しない雰囲気があると、自信がない子は発言すらできません。失敗してもいいんだよ、間違ってもいいんだよ、というメッセージを先生から子どもたちに常に送ることが大切です。そして、第三は「発言が特定の人に偏らないような環境づくり」です。教室内では自然に任せると、失敗の可能性が低い子(優秀な子)、元来空気を読まないタイプの子だけが発言するようになります。少人数に班分けして話し合わせる、順番に発言させるなど発言が特定の子どもに偏らないようにすることが大切です。
そしてもっとも大事なことは、教室の心理的安全性を確保するためには、まず先生方が心理的安全な状態におかれることです。教員組織の中で気兼ねなく発言できる状態、つまり職員室が心理的安全でなければ子どもたちの心理的安全性を確保することはできません。普段の何気ない会話でもいらぬ忖度をしたりしていませんか。職員会議で一部の声の大きい人だけが発言していませんか。まずは、先生方のチームから変えていくように努力してみましょう。
今回の「教室の心理的安全性」については、YouTubeチャンネルにも解説動画をあげています。ぜひご覧ください。
ここまで、7回にわたって「子どもの学びを変える7つのキーワード」という記事を書いてきました。通してお読みいただいた方には感謝申し上げます。次回以降はまた新しい視点で教育について語っていきたいと思います。引き続きご愛顧ください!