こんにちは。コアネット教育総合研究所の松原和之です。

シリーズ「子どもの学びを変える7つのキーワード」の5回目です。今回は「クリエイティビティ」について取り上げます。

面白い話があります。
アドビが米国、英国、ドイツ、フランス、日本の成人約5千人にアンケートを行った「State of Create:2016」という調査があります。
この調査で、「世界で最もクリエイティブな国・都市はどこか」という質問がありました。一番はどこだったと思いますか。
答えは、国は「日本」(34%)、都市は「東京」(26%)が1位でした。つまり、世界の人々は日本や東京がクリエイティブな所だと思っているのです。

では、「自らをクリエイティブだと思う」という日本人はどれぐらいいると思いますか。
答えは13%。
ドイツ人は57%、米国人は55%、英国人は41%、フランス人は40%が「自分はクリエイティブだ」と思っているのに対し、圧倒的に少ない割合です。

面白くありませんか。
日本人は、自らのクリエイティブさの基準が厳しいのかもしれませんね。

同様に、アドビは、「Z世代調査(2016)」として、米国、英国、ドイツ、オーストラリア、日本の中高生にあたる世代にアンケート調査をしています。
ここでも似たような質問をしているのですが、自分が創造的だと思う日本の中高生は8%しかいませんでした。米国47%、オーストラリア46%、ドイツ44%、英国37%ですから、子どもたちの自己評価としても、日本人は創造的とはいえないようです。

近年、産業界ではイノベーションが大切だといわれ、日本はクリエイティブな新商品を生み出せないからグローバル競争力が弱まっているといわれています。昔のように良いモノを安く作るだけではグローバル競争力は保てません。日本人に今もっとも必要な能力はクリエイティビティ(創造力)だといっても過言ではありません。

では、なぜ日本人は(少なくとも自己評価では)クリエイティビティが弱いのでしょうか。なぜ日本ではクリエイティビティが育たないのでしょうか。

そこには、風土的要因があると思います。
日本人は平等が大好きです。誰かが遅れをとることがないようスピードを合わせます。そのことで誰かが先に出ていくことも抑えられます。徒競走で皆で手をつないで同時にゴールテープを切る運動会があるとかないとか。
授業中に学力優秀な子が先回りして答えを言おうとすると先生がそれを制止するようなシーンも見たことがあります。
「出る杭は打たれる」――そんな風土の中で、自分らしい個性を自由に表現することなんてできるわけがありません。創造力よりも平等や場の規律を重んじる日本の風土がクリエイティビティの発揮を拒んできたのです。

脳神経科学の見地からいうと、脳は生まれながらにして新しいアイデアを作ることは得意なのだそうです。でも自分にとって新しいアイデアと他人にとって新しいアイデアは異なります。自分でクリエイティビティを発揮したつもりでも、そのアイデアを口に出した途端、評価されてダメ出しされることも多いでしょう。特に、日本の風土においては、ダメ出しどころか、新しいアイデアを口に出すことさえ制止される経験が多くなります。そうなると、だんだんクリエイティビティを発揮する意欲がなくなっていくのだそうです。クリエイティビティの育成は「創造プロセス」と「評価プロセス」を分けて考えるべきだといいます(前回登場の青砥瑞人さん曰く)。

小さな子どもは何でもかんでも思ったことを口に出します。でも日本では、そのたびに大人にダメ出しされます。子どもが思ったように絵を書いてもダメ出しの連発です。
――空を黄色で塗ったりすると、「空は青でしょ!」
――樹の葉っぱを茶色で描いたりすると、「葉っぱは緑でしょ!」
――お父さんだけやたらと大きく描くと、「こんなに背の高さは違わないでしょ!」

大人は正しいことを子どもに教えてあげようとしているのかもしれませんが、子どもにはそう見えたんです。子どもにはそう思えたんです。
その創造力に対して、評価プロセスでダメ出しをしちゃうんですよね。
既成概念による正解主義が子どものクリエイティビティを阻害しちゃうんですよね。

実は、世の中に存在するモノの色や形なんて正解はないんですよ。
モノに色がついているのではなく、光がどう反射・吸収するかだけですよね。
形だって、光が目に届いて、自分の網膜にどう映るかということだけですよね。
モノの存在自体だって、確実ではなく、その人に見えたというだけですよね。
捉え方、感じ方は、人によって違って当たり前なんです。

そこに既成概念で正解(と一般的に言われていること)を与えても意味がありません。
「へー、そう見えたんだね」と言ってあげましょう。

クリエイティビティは遺伝ではなく後天性なのだそうです。脳神経科学においては、その脳を使わなければ刈り込まれる「Use it or Lose it.」の法則があるので、クリエイティビティを発揮しなければ、その脳の部位が衰退していくそうです。逆に、クリエイティビティを発揮することを促進すれば、クリエイティビティ脳は育つのです。

「クリエイティビティを育てるのってどうやるの?」とよく聞かれますが、簡単です。
「邪魔しないでください」――これだけです。

「子どもの学びを変える7つのキーワード」。次回は「メタ認知」について取り上げようと思います。