こんにちは。コアネット教育総合研究所の松原和之です。
先日、山口県私立中高協会主催の研修会で、「コンピテンシー・ベースのカリキュラム・マネジメント」というタイトルで講演をしましたので、今日はその内容を少しご紹介します。
教育における「コンピテンシー」とは、「社会で活躍するために必要な資質・能力」のことです(※)。
※OECD DeSeCoの「キーコンピテンシー」の定義である「人生の成功と正常に機能する社会(持続可能な発展)のためにどのような能力が必要かという課題に対して、人がもつべき知識や技能を超える能力群」を筆者が意訳して定義しました。
社会人になってから、「彼は、勉強はできるけど、仕事はできない」などと言われてしまう人には何が足りないのでしょうか。
「勉強はできる」というのは、「教科の知識はある」とか「学歴は高い」という意味でしょう。子どもの頃から頑張って勉強してきて難関大学も卒業したのに「仕事ができない」と評価されてしまうのは残念ですね。
学校で教えられた知識をただ覚えているだけでは社会では活躍できないということでしょう。
そういう人の多くは、自分で考え自分で判断して行動する力やコミュニケーション力、人に好かれる人間性のようなものが足りないのではないかと思います。
一方、新しい学習指導要領(小学校で2020年度から導入)では、「育成すべき資質・能力の三つの柱」を定義しています。
(1)「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」
(2)「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」
(3)「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」
これまでの学校教育では、どうしても(1)に偏ってしまい、(2)や(3)は疎かになりがちでした。社会に出てから活躍できない人に足りない能力というのは、この(2)(3)にあたるでしょう。もっと幅広く多様な学力を身に付けられるようにしましょう、社会につながる資質・能力を育てましょう、というのが次期学習指導要領の目玉の一つです。
そして、これら(2)や(3)にあたる資質・能力が今の時代のコンピテンシーと重なります。
このコンピテンシーを育てるということを意識してカリキュラムをつくり、実施して、見直し、改善していこうというのが「コンピテンシー・ベースのカリキュラム・マネジメント」というわけです。
これまでの知識・技能ベースのカリキュラムとあわせて、コンピテンシー・ベースのカリキュラムもつくることになります。そして、コンピテンシーは特定の教科に依拠しない資質・能力なので、いつ、どの教科で、どのようなコンピテンシーを身に付けるのかを教科横断で計画しなければなりません。そこに複雑性がはらんでいます。
具体的には、まず身に付けるコンピテンシーを明確にしなければなりません。私学であれば、目指すべき人物像(建学の精神、教育理念、校訓等)が明確だと思います。その目標イメージと時代が求める資質・能力を合わせて、教育目標を再定義します。
教育目標(ディプロマ・ポリシー)から育てるべきコンピテンシーの大枠をいくつか設定します(=コンピテンシー・カテゴリー)。そして、そのカテゴリーに含まれる個別のコンピテンシー項目を設定していきます。
このコンピテンシー項目に達成基準を何段階かで設定したものが「ルーブリック」(※)です。
※「ルーブリック」についてはこちらをご参照ください。
コンピテンシー・ベースのカリキュラム・マネジメントの第一段階がルーブリックづくりです。そして、このルーブリックをベースにして、授業を組み立てていきます。
例えば「論理的思考力」を育てるための授業をどのように設計するか。それを各教科で考えていきます。同じ「論理的思考力」でも教科によって教え方は違います。しかし、生徒にとってみれば、「論理的思考力」という一つの身に付けるべき資質・能力です。学ぶ機会が計画的に提供されていなければ、生徒が混乱・困惑します。
知識・技能だけではなく思考力・判断力・表現力や学びに向かう力、人間性などを育てようと思うと、授業の方法も今まで通りの一方通行型の講義では限界があります。そこで注目されるのが「アクティブ・ラーニング」(※)です。生徒が主体的・対話的に深く学ぶことで、そういった多様な学力を身に付けることができます。
※「アクティブ・ラーニング」についてはこちらをご参照ください。
こうして、コンピテンシーとアクティブ・ラーニングは結びついてきます。つまり、コンピテンシー・ベースのカリキュラム・マネジメントを考える上では、アクティブ・ラーニングは欠かせないということです。
そして、最後に高校の先生方にとっては外すことのできない重要な事柄に触れて、この稿を締めましょう。
それは、大学入試改革です。
高大接続改革の一連の議論を経て、大学入試が大きく変わろうとしています。誤解を恐れず色々なことを省いて簡単に言うと、「知識・技能だけでなく多様な資質・能力を試す試験に変えよう」ということです。先述の次期学習指導要領の定義を使えば、(1)だけでなく(2)や(3)の資質・能力も試験範囲ですよ、と文部科学省が言っているわけです。
つまり、新しい大学入試はコンピテンシーを問う試験に変わるということです。
こうして、
社会→大学教育→大学入試→高校教育
と、一貫してコンピテンシー・ベースの学びが求められるようになったというわけです。
かなり端折ったので論理が飛躍している部分もあると思いますが、これからの時代の中等教育にいてコンピテンシー・ベースのカリキュラム・マネジメントが必要であることがお分かりいただけたのであれば幸いです。