こんにちは。コアネット教育総合研究所の松原和之です。
「教える」は、指導者や上司が主語です。一方の「学ぶ」は選手や部下が主語になります。指導者はあくまで選手の「環境」の一部と言えます。
したがって、彼らは教えません。手取り足取り教える代わりに、選手が心地よく学べる環境を用意し、学習効果を高める工夫をする。「教え方がうまい」といった指導スキルではなく、選手が学べる環境をつくることが育成術の生命線なのです。
考える癖をつけることに重きを置き、考える余白をつくってあげる。
一方的なコーチングをせず、問いをつくることにこころを砕く。
選手たちが「学びたい」と自然に意欲がわくような環境を整備する。
これら「教えないスキル」の核になるものを獲得するプロセスで、私は気づきました。
「伸ばしたい相手を主語にすれば、誰しもがその相手のために心地よい学びをつくろうとする。誰しもが工夫し始めるのだ」と。
これは、佐伯夕利子さんの著書「教えないスキル ~ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術~」(小学館新書)の一節です。
近年、私が学校の先生向けの講演などで話している「学校教育のパラダイムシフト」とほぼ同じ趣旨のことが書かれています。
そう、「教える」から「学ぶ」への発想の転換です。
佐伯さんは、あの久保建英くんが昨年所属していたスペインのサッカーのトップクラブチーム「ビジャレアル」の元指導者です。
ビジャレアルでは、2014年からチームの選手指導を大改革しました。ビジャレアルでも、それまでは日本でもお馴染みの鬼コーチが教え込む指導をしていました。しかし、サッカーで勝つことだけではなく、人として成長することに目標に変え、自分で考えてプレーできる選手を育てるよう方針転換をしました。その実現方法が指導者たちの「教えないスキル」なのです。
従来、指導者はプレーを見ながら「右!右にパスを出せ!」「打て!シュート!」と選手の一挙手一投足に指示を出していました。それが威圧的になればなるほど選手は萎縮して自分で考えることができなくなるのです。
しかし、試合中はすべて監督やコーチの言うことに従って動くことはできません。自分で考えて動かなければなりません。
練習時から自分で考えることを重視するのは試合に勝つためにも必要なのです。
そうした場合、褒める教育が効果があるなどとよく言いますが、褒めるだけでなく、選手に対して問いを発することが大事だというのです。
(以下、引用)
例えば、良いパスがあったとき、単純に「ナイスパス!」で終わらせず、「今のパス、なぜ右に出したの?」と尋ねます。
選手「最初は左かなと思ったんだけど、パスコースが消えてたんで、一度フェイントかけてる間に走り込んでくると思って右に出しました」
コーチ「なるほどね。そんな見方やプレーは、コーチや監督は思いつかなかったし、できなかったな」
このようなやり取りが、彼らのモチベーションをものすごい勢いで高めていくと感じました。(引用終わり)
問いで関わることで、選手が自分で考えるようになるだけでなく、自分のプレーを自分の言葉で表現できるようになり、そしてそれを承認してもらうことで、自己肯定感も強くなるのです。
ここまで読んでいたらお分かりの通り、これはサッカーやスポーツ指導のことだけではないのです。人を育てるすべての場面に当てはまることなのです。
学校の授業中に先生が生徒にこのような関わりの持ち方をしたら、生徒が伸びると思いませんか。
自立した学習者を育てる一つの方法として、このようなコーチング手法を取り入れることを考えてみませんか。