こんにちは。コアネット教育総合研究所の松原和之です。

今月7日、「JAPAN e-Portfolio」(JeP)が破綻しました。正確にいうと、文部科学省が、JePを運営する「一般社団法人教育情報管理機構」の運営許可を取り消しました。

少し長くなりますが、8月7日に掲載された文部科学省のホームページから、運営許可取り消しに至った経緯を引用しましょう。

 

「JAPAN e-Portfolio」については、大学入学者選抜において、学力の3要素、とりわけ「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を評価するための一つのツールとして、文部科学省が大学入学者選抜改革推進委託事業(主体性等分野)(実施期間:平成28年度~30 年度)における調査・研究により、開発されたものです。
委託事業終了後の平成31年度からは、運営を希望する非営利組織が運営許可要件を満たす場合に、文部科学省が「JAPAN e-Portfolio」の運営主体として許可する制度とし、実際、平成31年3月に一般社団法人教育情報管理機構に対して、今後事業運営に必要な資力を有していることの確認を行い、要件を満たさない場合には運営許可を取り消す場合があることを前提に、運営を「許可(条件付き)」していたところです。
しかしながら、委託事業期間中は文部科学省の委託研究事業としての試行的な取組でしたが、運営許可後は同機構が主体となって事業運営を行っていくこととなったため、文部科学省としても委託事業において参画していた大学に対し引き続きの利用を求める形をとらず、ゼロベースでの事業運営としたことから、運営当初からの一定規模の大学数を確保できず、事業運営に制約がありました。また、文部科学省も特段、大学数の増加に係る促進策を講じなかったことから、大学においても「JAPAN e-Portfolio」を入試で活用することの理解が進まず、このことも、事業運営に影響を与えたものと考えます。
こうした中にあって同法人の関係者におかれては、所属する大学の立場を超えて、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を評価することの必要性に賛同していただき、「JAPAN e-Portfolio」の運営を通じて、高等学校教育における継続的な「主体的な学び」や、個別大学の入学者選抜における多面的・総合的な評価が促進されるよう、ご尽力いただきました。
しかしながら、事業運営に必要な資力と安定的な財務状況を確保していくことが、事業継続には不可欠であり、この度複数回の運営許可に係る審査等も踏まえて、文部科学省として同法人の財務状況の改善は見込めないと判断し、運営許可の取り消しに至りました。

これを私の解釈を入れて要約すると、
「大学入試で主体性を試したいので税金を投じてその方法を研究し、その結果JePができました。JePの運営は業者に丸投げしましたが、その丸投げした業者の経営がうまくいかなくなってきたので、それを理由に、JePごとやめちゃいます。それもこれも大学や高校がちゃんと協力してくれないからですよ。」
という感じでしょうか。

なんという当事者意識の欠如、責任逃れ、罪悪感のなさでしょう!

JePそのものは、文部科学省が主体となって研究を委託し、その内容を認め、運営会社に委託して行ったものです。であれば、運営会社の許可を取り消したら、別の誰かに委託を引き継ぐべきものでしょう。運営会社の許可取り消しがイコールJeP事業の終了というのはおかしいです。

結局、JeP事業そのものが失敗だったのです。それを認めて素直に責任をとればいいのですが、それを運営会社の経営問題にすり替えて、責任逃れをしているのです。

そして、そのツケは教育現場に回ってきます。

大学入試に必要と言われれば、高校も生徒たちも利用登録せざるを得ませんでした。既に18万人(連携サービスも含めると約200万人)の高校生が登録をしていたといいます。
その高校生たちが登録した情報はそのままでは入試には使えません。入力した情報を取っておきたいならコピー&ペーストしろ、という無茶な後始末を指示しています。

以下、文部科学省のホームページから引用します。

 

利用者(高校生及び高校卒業者)の皆様、利用者が在籍している高校の関係者の皆様へ

「JAPAN e-Portfolio」の運営許可の取り消しに伴い、一般社団法人教育情報管理機構による運用が停止されるため、これまで利用者が登録した情報は、「JAPAN e-Portfolio」を通じては令和3年度の大学入学者選抜に活用することができません。
利用者の登録情報の取扱に関しては同法人と文部科学省とで調整を行いましたが、令和2年9月11日以降「JAPAN e-Portfolio」のシステムは完全に停止しますので、登録した情報を保存したい利用者の皆様は令和2年9月10日までに、以下の方法で情報を保存してください。

【利用者の皆様の登録情報の取扱】
・利用者が自分でデータを直接保存するためには、学びのデータの画面からコピーアンドペーストしてメモ帳などに貼り付けて保存いただくか、画面を印刷するなどする必要があります。
・なお、日本の高等学校に在籍している生徒の情報は、所属する高等学校の先生がPDFでダウンロードすることもできます。※学びのデータはpdf形式になり、添付ファイルは利用者が添付したファイルの拡張子になります。(利用者自身がダウンロードすることはできません)。
・上記の印刷・保存作業は、必ず令和2年9月10日(木)までに行ってください。それ以降は登録した情報は、個人情報の秘密の保持の観点から、確実に消去されます。
・利用者が在籍している高校の関係者の皆様は、担当の教員と在籍する生徒に対して、利用者情報の保存や印刷に係る手続を遺漏なく行うように、ご周知、ご指導いただくようお願いいたします。

文部科学省の大学入学者選抜改革推進委託事業(主体性等分野)は2016年度から実施されていました。初年度からe-Portfolioを利用した方法が提案されており、2017年度からJePの実験事業が始まっていました。

私は、2018年頃には、大学の参画への姿勢を見て「2021年になっても、ほぼ大学入試では使われないだろう」と予想していました。つまり、JePの事業失敗が見えていたのです(私だけではなく、当時多くの関係者がそう予測していたと思います)。

しかし、2019年度には運営主体が決定され、本格的に事業をスタートさせたのです。なぜその時点で止められなかったのか、なぜ改善提案がなされなかったのか。そして、1年半しか経っていないのに、運営許可が取り消されました。
私が知っている事実は、その間に文部科学大臣が交代になったこと、そして新しい文部科学大臣が、特定企業の不適切な営業活動に利用されている危険性を指摘したことだけです(政治的なことには関心がないので、これ以上突っ込みません)。

私は、JePが失敗に終わっても、e-portfolio自体が終わったわけではないということを強く主張したいと思います。
なぜなら、そもそもJePはe-portfolioの正しい活用の方法ではなかったからです。

JePの機能は、生徒が高校時代に「何を学習したか」を自分で記録し、その事実を大学入試時に評価してもらうというものです。これは本質的にe-portfolioの機能を誤用しています。
本来のe-portfolioの機能は、「何を学習したか」だけでなく「その結果がどうだったのか」「結果を受けて今後どうしようと考えているか」という自己評価や振り返りを行い、またそれを記録しておき、後に見返すことで、長期的な自己評価、振り返りを行うことに意義があります。e-portfolioは、他人が評価するのではなく、自分で振り返り、評価するためのものです。つまり、そのことにより、主体性や自己評価力、メタ認知力を育むためのものなのです。

その意味では、これまで行ってきた生徒たちのe-portfolioの取り組みは無駄ではありません。今からでも、本来の使い方に改善し、利用を継続してください。JePに直接入力していた学校はe-portfolioアプリを乗り換えないといけないですが、連携アプリを使っていた学校は「大学入試に使わないならもうやめた」と言わずに、ぜひこれからも継続して活用してください。ただし、記録するだけではなく、きちんと振り返りに使ってください。

JePは終わっても、e-portfolioそのものは終わっていません。