こんにちは。コアネット教育総合研究所の松原和之です。
みなさま、ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしたでしょうか。
私は10連休とはいかないまでも、例年に比べれば多めに休みをとり、リフレッシュできました。海外旅行などには行けませんでしたが、かなり読書の時間をとることができて、とても有意義な休暇でした。
今日はその中の一冊を紹介しましょう。スティーブン・スローマン&フィリップ・ファーンバック著、土方奈美訳「知ってるつもり――無知の科学」という本です。
著者は「人間は自分が思っているより無知である」と言い、このことを「知識の錯覚」と呼んでいます。人間の知識は皮相的で、知っていると思っていることでも、ほとんど説明できないと言います。このことは、いつも私も感じています。「50年以上も生きているのに、知らないことがたくさんあるなー」と、いつも思っていました。学校で習ったけれども忘れてしまったこと、学校では習わなかったこと、学校を卒業した後に出てきた情報や知識。色々な理由はありますが、世の中は知らないことばかりです。
しかし、著者は、だから人間がダメだと言っているわけではありません。私たちを取り巻く世界は複雑で全てを理解することなどとてもできない。だから、人間の知性は、新たな状況下での意思決定に最も役立つ情報だけを抽出するように進化してきたと言うのです。頭の中にはごくわずかな情報だけを保持して、必要に応じて他の場所(自分の身体、環境、他の人など)に蓄えられた知識を頼るのだそうです。これを著者は「知識のコミュニティ」と呼んでいます。そして、これこそが人間の知性なのです。
知らないことは他人に頼る。そうやって人間は一人の力では解けない課題を解き、一人では成し遂げられない事を成し遂げてきたのです。
今後、世界はどんどん複雑化していきます。一人の人間ができることはますます限られていきます。著者は言います。「教育の目的は子供たちに一人でモノを考えるための知識と能力を付与することであるという誤った認識は排除すべきだ。」「学習とは単に新たな知識や能力を身につけることではない。そこには他者と協力する方法を学ぶこと、そして自分に提供できる知識、他社から埋めてもらわなければならない知識は何かを知ることも含まれている。」
「持っている知識」だけではなく、「持っていない知識」に目を向けると、「なぜ?」という自問が出てくるはずです。自分が知らないことを探究する姿勢を身につけることが学びの原点です。そして、学びの場も「知識のコミュニティ」だと認識し、他者の力も借りながら、互いに知識を交換しながら問題解決していくような場にしなければなりません。
こうやって見てくると、いま盛んに言われている「主体的・対話的で深い学び」「探究的な学び」の重要性が理解できます。「知っていること」よりも、「知らないことを知る姿勢やその方法」の方が重要なのです。
もちろん、知識を他者に頼るということは、批判的思考力(批判的に考えるに足る基礎知識を含む)が重要になります。すべてを鵜呑みにしていたら、自分の知性が捻じ曲がることになります。知らないことに出会ったら直ぐスマホで調べるのもいいですが、検索された情報が信頼できるものかどうかを判断する力は持っていなければなりません。その意味では、「持っている知識」をないがしろにはできません。
いずれにしても、いまなぜ「探究的な学び」が求められているのかを理解するには、とても良い視点をもらえる書籍でした。表紙には「ビジネスパーソン必読教養書」などと書いてありますが、教育関係者にも読んで欲しい一冊です。