こんにちは。コアネット教育総合研究所松原和之です。

高大接続改革の一環として、今後は大学入試において多様な資質・能力を試されるようになっていきます。
つまり、一般入試においても、知識だけでなく、思考力・判断力・表現力や主体性を試されるようになるのです。

しかし、主にペーパーテストにならざるを得ない一般入試において主体性を評価することはとても難しいことです。

そこで、にわかに登場したのが「Japan e-Portfolio(ジャパン・イーポートフォリオ=JeP)」です。
文部科学省から主体性評価についての研究を委託された関西学院大学を中心とする大学合同研究チームが白羽の矢を立てたのがe-portfolioだったのです。

e-portfolioは学習のプロセスを学習者自身が記録し可視化する方法です。

研究チームが開発したJePは、高校1年生から「探究活動」「生徒会・委員会」「学校行事」「部活動」「学校以外の活動」「留学・海外経験」「表彰・顕彰」「資格・検定」という8つのカテゴリーで学習の記録をさせ、WEB出願と組み合わせて、大学入試における評価に使おうという仕組みです。

その利用方法は各大学に任されるのですが、開発者が提示している例では、出願資格、入試得点への加点、合否ボーダーでの判定などに使うようです。
具体的には、JePの8つのカテゴリーから大学が任意の項目の開示を受験生に求め、開示された学習成果を得点化することをイメージしているようです。〇〇の資格が1級なら20点、2級なら10点とか、大会・コンクールの結果が国際レベルなら50点、全国レベルなら40点というような例示がされています。

私が気になるのは、高校時代に何に取り組んできたのかを見ることが本当に主体性の評価になるのか、ということです。
特に、例示されているように、結果のレベル感を問うのであれば、もはやそれは主体性の評価ではありません。

私が高校の教員なら、大学が求める結果の基準が公表された時点で、そこに向けて生徒を頑張らせるようになると思います。
つまり、「強制された主体性」とも呼べる状態になります。

本来、e-portfolioは学習のためのツールです。それを評価のためのツールとして使うことに無理があるのです。
e-portfolioは、学んだプロセスを記録し、生徒自身が振り返りを行うことに意味があります。目標を持って学習し、学びを振り返り、気付きを得て、次の目標につなげる。このサイクルが生徒自身の主体性とメタ認知力を育てるのです。
もちろん、この学習サイクルには先生のフォローが不可欠です。振り返り、気付きを得る段階で、それを支えるようにフォローするのです。本来、e-portfolioですべき評価とはこういうことです。

そのために、ほとんどのe-portfolioでは、生徒一人ひとりのポートフォリオを教員が見られるようになっています。
e-portfolioを活用した形成的な評価が、生徒の主体性とメタ認知力育成の効果を高めます。

e-portfolioは様々な学習効果をもたらすツールです。しかし、JePで初めてe-portfolioを知った方々は、それを大学入試における評価のためのツールだと誤解してしまいます。私はそれが残念です。

正しくe-portfolioを理解し、JeP=本来のe-portfolioだと思わないようにしましょう。

しかし、JePが大学入試で何らかの形で利用されるのは不可避だと思います。どうせ使わなければならないのであれば、本来の意図・目的を理解して上手く活用しましょう。