こんにちは。コアネット教育総合研究所の松原和之です。
先月(2018年3月30日)、高等学校の学習指導要領改正が告示されました。かねてより話題になっていた合教科の「理数科」が共通教科として新設され、その中に「理数探究基礎」「理数探究」という科目が設定されました。その他にも「古典探究」「地理探究」「日本史探究」「世界史探究」という探究と名の付く科目がいくつも新設され、「総合的な学習の時間」も「総合的な探究の時間」と改称されました。
また、公民科には「公共」という科目が必履修科目として新設され、情報科では「情報Ⅰ」が必履修科目となりプログラミング教育が全高校生必修となりました。
中学校の新学習指導要領がほとんど科目の新設もなく単位時間数も変わらないのに対し、高校はかなり科目が新設され大きく変貌しています。
しかし、今回の学習指導要領改訂のもっと大きな変化は、「何ができるようになるか」を明確化したことと、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善が示唆されたことです。
従来のように教科固有の知識・技能を身につけるだけでなく、思考力・判断力・表現力や学びに向かう力・主体性といった教科の枠を超えた汎用的な資質・能力を育成することが求められるようになっており、それを実現するための主体的な学び、対話的な学びを行うことが必要になっているのです。
このように、学ぶ内容の“質”が変わり、学習の“スタイル”が変わることは、教育現場にとってはコペルニクス的な変化です。
このような質的転換を求められる学習指導要領の改訂に向けて、私立中高一貫校では既に自校のカリキュラム改訂の準備に取り掛かっている学校も少なくありません。カリキュラム改訂といえば、従来は教科ごとの時間の取り合いでした。教える内容を広く深くしたいと思えば思うほど、自教科になるべく多くの時間を配当してほしいと思うものです。しかし、時間は有限。平日6時間の授業だとすると、月曜日から金曜日までで週30時間しかありません。私立では土曜日も授業をしているところが多いですが、それを足しても週34時間が精一杯です。この34時間を各教科で取り合うのです。
例えば中学1年生であれば、学習指導要領が定める標準時数では、国語4時間、社会3時間、数学4時間、理科3時間、英語4時間のような感じで週29時間と決められています。私立では、国語、数学、理科を+1時間、英語を+2時間など増配当をして、34時間が埋まっています。そこへ来て、社会科が「教えることが多いから1時間増やしてほしい」と言い出せば、どの教科を減らすのかという議論になるのです。
こうして時間割の配分が決まれば、あとは各教科に任せて指導計画(シラバス)を考えるというのが従来の検討方式でした。
しかし、今回の新学習指導要領では、教科共通で育成する「資質・能力」があります。そして、それらを教えるための「教え方」が変わります。つまり、時間の取り合いとは別次元で、学校全体で話し合って決めなければならないことがたくさんあるのです。
・各教科で求められる(学習指導要領に記載されている)思考力・判断力・表現力にはどのようなものがあり、それらのうち教科を跨いで求められる要素は何なのか。
・その要素について、何年生でどのレベルのことが求められているのか。どのように各教科で連携すべきか。
・それらを身につけるためには、どのような教え方をしなければならないのか。各教科における「主体的・対話的で深い学び」とはどのようなものか。
こういった方針を学校全体で話し合って決めておかなければなりません。これが今回の学習指導要領改訂のコンセプトでも強調されてきた「資質・能力をベースとしたカリキュラム・マネジメント」です。
中学校は2021年度、高校は2022年度から新しいカリキュラムが始まります。行政への届出や広報を考えると、改訂の1年前には決まっていなければなりません。そして、具体的な議論に1年間かけるとすると、2019年度から具体的な議論を始めなければなりません。つまり、それ以前の全校的な方針のすり合わせをするのであれば、2018年度からなのです。
従来はやったことがないカリキュラム・マネジメントの考え方です。このような全校での話し合いをするのであれば、それなりに準備が必要です。早めにスタートするに越したことはありません。
私がコンサルティングしている学校の中でも既に数校がカリキュラム・マネジメントの議論を始めています。学校全体の方針作りがカリキュラムの成否を決めると思います。検討スタートはお早めに!